
古志 晋也(50)
愛媛県出身 2022年移住。
幼い頃からあった「いつか上勝で暮らしたい」という思い
愛媛県で生まれ、魚が好きだったこともあり、10代の頃からアルバイトをしていたクルマエビの養殖を気づけば約30年間仕事にしてきました。その一方で、ずっと心の中にあったのが「上勝町で暮らしたい」という思いです。
というのも、母が上勝の出身で祖父母の家が町内にあったんです。子どもの頃から夏休みや春休み、ゴールデンウィークになるたびに遊びに来ていて、川で泳いだり魚を捕ったりするのが本当に楽しかったです。
大人になってからも年に5、6回は上勝に通っていました。お墓参りや柚子、スダチを取りに来たり、ちょっと時間ができたら日帰りでふらっと来たり。子どもを連れて川で遊んだり。そんなふうに、常に心のどこかに「いつか上勝で暮らしたい」という気持ちがあったんです。


自分の“馬力”があるうちに、山で暮らす選択を
クルマエビの仕事にも愛着はあったし、やりがいもありました。でも、子どもが育って手を離れたこともあり、「山に帰るなら自分にまだ馬力があるうちに拠点をつくるべきじゃないか」と考えて、ついに移住を決めました。
住まいは祖父母が暮らしていた家。いわゆる“孫ターン”です。移住に合わせて漁業は辞めて、新しくスダチや柚子、ゆこうの栽培を始めることにしました。隣町の勝浦町にある「柑橘アカデミー」で1年間勉強して、新規就農という形でスタート。祖父母が持っていた畑は小さかったので、新たに畑を借りて農業の道へと踏み出しました。


想像以上に面白くて、想像以上に人が近い暮らし
漁業は生き物を扱う仕事なので、常に気が抜けなかったです。朝は3時起き、仕事が終わるのは夜11時という日も少なくなくて。台風の時は3日間ずっと現場に詰めることも。だからこそ、上勝では「時間に追われない暮らしがしたい」と思っていました。
実際に移住してからは、ストレスも少なく自分のペースで暮らせるようになりました。
しかも、思っていた以上に面白い。
ひとりで川に行って魚を捕って楽しむつもりだったのが、気づけば同じように川が好きで魚を捕るのが好きな仲間ができていました。正直、こんな仲間ができるなんて想像していなかったです。
きっかけは、地域の消防団や行事に誘ってもらったことです。飲みの席で川と魚の話で盛り上がって、「じゃあ一緒に行こう」と自然な流れで輪に入れてもらいました。住んでいる旭地区の人たちはとにかくフレンドリーで、どんどん引っ張ってくれるし、みんな個性が強くて面白い。

季節ごとに楽しみがあるのも嬉しい。3月はアメゴ釣り、4月は山菜採り、夏は川で鮎、秋は祭りや音楽祭、冬はゆったりと過ごす。
特に9月の川に入っての鮎漁解禁は一大イベント。解禁日前から仲間たちと連日集まって、前々夜祭、前夜祭…と続き、本番当日はむしろヘロヘロになっていたりして。
そんなふうに、自然と人とのつながりのなかで想像を超える上勝ライフを楽しんでいます。
地域のために何かできる人になりたい
これからはもう少し畑を広げて、農業の基盤をしっかり整えていきたいと思っています。そのうえで、遊びもとことん楽しむ。せっかく上勝に来たんだから、川も山も仲間も全部を味わい尽くしたいです。
それと、いざというときに地域のために動けるようになりたい。たとえば火事のときに、どこから消防の水を取るべきかが分かるようになっていたいです。上勝には常設の消防署がないから、消防団の力が頼り。自分も地域の一員としてそういう場面で力を出せる存在になれたらと思っています。
もちろん、田舎暮らしは便利さで言えば都会には敵わない。でも、空気も水も美味しいし、時間もゆったり流れている。不便さも含めて「あるものでなんとかする」っていう生き方が心地いい。
何より、人とのつながりが大事。コミュニケーションがあれば何もなくても生きていける。そう思わせてくれるのが、この上勝という町です。
