里山を次世代に。有機農業による挑戦。
阿部 正臣(43)
徳島県徳島市出身
2009年に移住。2014年から本格的に就農。
自然と関わる仕事がしたい
地元の徳島市で働いていた30代前半の頃、自然に関わる仕事がしたいと思って、藍染の世界に飛び込みました。京都にある草木染工房で一年半修行をしたあと、徳島で独立を考えているときに、知り合いの方から「上勝でやれへんか」と声をかけてもらいました。「自然を身近に感じられる場所でやれればいいなぁ。」と思っていたのと、子育てもその方がいいと思ったので、すぐに移住を決めました。
移住してからしばらくは、藍染と町内の様々な仕事をして生計を立てていました。3年ほど経った頃、放置竹林を間伐する仕事をすることになって、切った竹をチップ状に粉砕したものを畑の堆肥として試しに使ってみたんです。そうしてできあがったホウレンソウをオーガニックフェスタの野菜コンテストに出品してみたところ、「美味しさ部門」と「栄養価部門」の最優秀賞を頂いて。それをきっかけに本格的に就農しようと考え、高知県の有機農業塾に一年間通った後、上勝町で有機農業をスタートしました。
有機農業という仕事
僕のテーマは「自然 伝統 ものづくり」。有機農業はテーマそのものです。確かに有機農業は手間がかかって大変ですが、その分「やっててよかった」と思えることもたくさんあります。種をまいて、それがすくすくと健康に大きくなっていくのを見る喜び、収穫する喜び、食べてもらった人に喜んでもらえる喜び。作業が終わってくたくたになったあとのお風呂と晩酌も格別な喜びです。
有機農業で大事なのは、とにかく畑に出ることです。作物や畑の状況を把握する観察力、やらなければならないことを優先順位をつけて次々とこなしていく判断力、実行力が問われます。多品目栽培ではそれが特に重要ですね。おかげさまで今では植えた作物の80%位は綺麗に育ってくれるようになりました。
仕事の内容
うちは季節の旬のものを多品目で作っています。春は小松菜やそらまめ、にんにく。夏はキュウリ、ナス、トマト。秋は、キャベツ、大根、サツマイモ。冬はホウレンソウ、白菜、茎ブロッコリーなど、年間を通じて約80品目になります。
作った野菜は主に一般家庭や飲食店に直接販売しています。金額に合わせて週一回や月一回、7~12種類くらいのおまかせ野菜セットをお届けしています。近場であれば直接配達、遠方へは宅急便で。
色んな野菜を作ることで、色んな方とつながることができています。多品目栽培は大変ですが、それが醍醐味ですね。
地元とのお付き合い
最初に畑を借りたとき、地元の知り合いを通じて借主さんと交渉をしました。その時はすでに移住して何年か経っており、地元とのお付き合いがあったので快く貸してもらうことができました。名(集落の組織)や消防団といった地域の組織に所属することや、清掃活動や祭りなどの行事に積極的に参加していくことで、地元との信頼関係を築くことができ、生活しやすくなると思います。飲む機会は増えますが。
また、畑で作業していると、通りかかった地元の年配の方が声をかけてくれます。「そろそろ飯にせんかー」という感じで。その際、色んなことを話すのですが、そういったコミュニケーションも大事です。例えば「あの山に雲がかかったら雨が降る」とか、「このあたりは赤土なので米がよくできる」など。土地勘がない自分にとってすごく参考になります。
これから上勝町で就農したい人へ一言
農業を家庭菜園ではなく職業とするなら、当然ですが生活をしていけるだけの経済性が伴わないといけません。はじめは周りから「有機農業は成り立たない」とよく言われました。でもそう言われると逆に燃えてきて頑張れたんですが。
今では、売り上げも上がってきて成果も出ているので「絶対無理だ」とは言われなくなりました。でもまだ自立できているとは言えません。ここ1、2年が勝負です。
今のところ僕のつたない経験では上勝町のような中山間地で新規就農して食べていくことは厳しいとしか言えません。でもこの里山の環境だからこそ、いいものづくりができる。食べた方に「美味しい!」と言ってもらえるし、オーガニックフェスタでも3度、賞をいただきました。
厳しいかもしれないけれど、「いっちょうやってやろうか!」という方は、一緒に切磋琢磨してみませんか?厳しくて楽しい農ライフが待っています。
里山を次世代に
地域にはいろんな伝統文化があります。農業もそのひとつ。それぞれの文化が地域の営みであり、それが里山を形成しています。里山は人を育て、自然の恵みを与えてくれます。今、その里山が失われつつある。地域の担い手不足が深刻な課題となっています。
僕は、それを解決するための有効な手段が有機農業であり、里山の自然を活かした新たな価値を創造できると考えています。まだまだ有機農家として「ひよっこ」ですが、これからも地域の担い手として、里山を次世代につなげるため頑張っていきたいと思います。