
工藤 啓弘(46)
徳島県出身 2021年移住。
美容師から林業へ
20年間、美容師として主に徳島県の阿南市で働いてきました。たくさんのお客さまと関わりながら、美容師の仕事にやりがいを感じて過ごしていました。でも、人生の折り返し地点に立ったとき、「このままでいいのかな?」という思いが芽生えたんです。この先の人生を考えて、自分の本当に好きなことに目を向けてみたら、そこには「山」がありました。
昔から山が好きで、登山やキャンプをして山に入る時間が何よりの楽しみでした。同じ自然でも海より山派なんです。海でサメに襲われるより山で熊に襲われる方がまだ生き延びられる可能性があるかな?って。それは半分冗談ですけど、自然の中にいると気持ちがリセットされる感覚があって。だったら、山の中で働くことができたらこんな幸せなことはないなと思うようになりました。
そうして辿り着いたのが、徳島県の林業アカデミー。オープンキャンパスに参加して試験を受けて入学しました。アカデミーでは、座学と実技を学んでから半年間徳島のさまざまな事業体でインターンシップを経験し、実際の林業の現場を肌で感じることができました。
上勝に来たのは今の職場に出会えたから
上勝町には、今の職場である「かみかつ森林環境公社」のインターンで訪れたのがきっかけです。ここでの仕事ぶりや人の姿勢に惹かれました。
移住先として選んだ理由は、実家のある徳島市まで車で小一時間ほど。両親もいい歳になってきていたので、何かあればすぐ駆けつけられる安心感がありました。大きな病院にも比較的行きやすく、自然に囲まれていながらも、ネットもあるし生活が極端に不便というわけでもない。そして、何よりこの町にある"程よい秘境感"が魅力的でした。
職場の「かみかつ森林環境公社」は入社時でスタッフが4人と小規模。レジェンド級のベテラン2人から直接指導してもらえる環境は、美容師時代の経験もあり、自分にとって厳しいだろうけど最高の学びになると確信していました。


山で働く幸せ
実際に働き出した最初は体力的にきつかったです。アカデミーでは実質1日に2時間くらいしか木を切らないんですが、現場では朝から夕方までチェーンソーを持って切り続けるので、昼頃には腕が限界に達することもありました。さらに、重い燃料や装備を背負って道なき急斜面を登り、枝をかき分けながら進むのは大変でした。大変だけどそういう環境を面白いとも思っていました。
元々山が好きだったし、嫌だと思ったことは一度もなかったです。できたら40代ではなく30代からこの仕事やっておけば良かったと思いましたけど。
美容師時代はぽっちゃり体型だったんですが、働き始めて1年で14kg痩せて引き締まりました。今では体も気持ちもスッキリしています。生活リズムも整い、精神的にも安定しました。
何より嬉しいのは「できなかったことが、できるようになる」瞬間です。まだまだ未熟ですが、新たな気づきがあると次の課題が見えてくる。それがすごく楽しいし、技術職の面白さだと思います。技術の追求には終わりがなく、とてもやりがいを感じています。
一次産業はいいなと思います。自分がやったことに対する結果が目に見えて分かり、その都度達成感を味わえるので。


人間らしく暮らせる町
上勝での暮らしも自分に合っています。友達が泊まりに来たとき、川の音を雨と間違えるほど自然が近い環境。地域の方もフレンドリーで面白く、せっかく上勝に来たんだから!と、祭りや行事、消防団にも声をかけてもらいました。
都会にいると「お金を使わなきゃ」「何かしてなきゃ」というプレッシャーが常にありました。でも上勝では、ただ自然の中に身を置いているだけで充足感があります。焦らされることなく自分のペースで生きられる生活はとても人間らしい生活だと感じています。